診断のきっかけ④

 

新しい環境の中で少しずつ崩れ始めていた私だったが、「まだ大丈夫」の糸がぷつんと切れてしまったと実感する出来事があった。

 

たぶんあれが、「ちょっと精神が疲れている状態」から「うつ」に変わった瞬間だったように私は感じている(実際にはそんなはっきりした切り替えがされる訳ではないと思うけれど)。

 

こちらに来て新しく入った会社は、3つの部に分かれていた。

私が配属された部は、かなりドロドロした部分の多いところだった。

 

一応トップがいるのだが、実際には部内にトップも逆らえない権力者がいて、彼の機嫌をうかがいながらトップが動くのだ。

会議でも、いちいちトップが権力者の意見に振り回されるので、とても気まずいし、ストレスと時間がかかる。

とにかくギスギスした部だった。

 

私が入社して2年目、この部に深い関わりのある、とある厄介な顧客との間に面倒なトラブルが起きた。

たまたま私が対応することが多かったので、少し気持ちがまいっていた。

 

そんな時、トップが会議の場でこう言った。

「この件は木口さん(←私)に対応してもらうことが多くなっているけど、これは部全体の問題だから、分担して、手の空いている人で対応しましょう!」

また、私個人に対しても、「木口さんだけに頑張ってもらう形になってしまっていてすまない。今後は全体で対応していこうな!」

と声をかけてくれたのである。

 

初めてトップをすごい!と思った。

また、現状をちゃんと把握してくれていて、やっぱりトップはトップなんだと感心した。

 

しかし、そんなトップ本人が、私を奈落の底に突き落としたのである。

 

けっきょく会議後も状況は変わらなかった。でも、きっとみんな忙しいだけだから、たまたま手が空く私が対応していればいいか。私が無理なら誰かがやってくれるはずだし…と思っていた私は甘かった。

 

ある時、私は自分の仕事に追われており、席を外していた。すると例の顧客がやってきて、誰かが対応したようだった。

 

席に戻って自分の仕事に取りかかったところ、トップから呼ばれた。

「いつもの人が来てるから、○○さん(←今対応している人)と交代して対応してきて。」

 

さも当然かのように言われて、面食らった。

 

「でも私、今別の仕事をしてまして…」

と言ってみたが、

「○○さんも仕事があるから。それはみんな一緒でしょ?」

 

けっきょく、私にだけ面倒ごとを押し付けるつもりだったのだ。会議での言葉も、私への言葉も周囲へのポーズに過ぎなかった。

 

悲しくて情けなくてむなしくて、私の中で何かが弾けとんだ。

 

誰も、何も信じられなくなった瞬間だった。