診断のきっかけ⑤

 

その件があってからも、当時まだ多少余力のあった私は、反撃を試みたこともあったのだ。

 

「その顧客の要望とか今までの対応の流れが分からないから、手が空いているからといって急に対応しろと言われても無理」

などと、さも「今まで対応してきた木口がやればいいじゃん」と言わんとする同僚に対し、私が顧客に対応した日、時間、内容を、過去のものも振り返り全て記録した一覧表を作ったのだ。

 

そして、部の全員にその存在を周知し、それを読んでもらったら誰でも対応できますから!と主張した。

 

しかし、自ら面倒ごとに首を突っ込む人がいるわけもなく、私の努力は無に帰した。誰も読まなかったし、一覧表を作れるくらい記憶しているなら、やっぱり木口が対応するべきだという暗黙の了解はますます色濃いものとなってしまった。

 

私がしたことは完全な自爆行為だった。

 

もう無理だ、そう思ってからは顧客への対応も、部の仕事も虚無の心で臨むしかなかった。

 

何か考えたら心が乱れる。

誰かを責めてしまう。

自分を責めてしまう。

自分がみじめになる。

そう思って、何も考えないようにした。

 

最終的にこの件が終息したとき、その顧客から最も高い評価を得たのは、私でもトップでもなく、部内の影の権力者だったのは本当にお笑い草だ。