診断のきっかけ③

 

「精神科」というと抵抗を感じる部分がないわけではなかったけれど、苦しさがもうそんな段階を超えていた。

私は近所のメンタルクリニックに行くことにした。

 

近所だと知り合いに会うかも、という理由で避ける人もいるようだけれど、私は気にしなかった。

 

私の今住んでいるところは、かなり都会だ。

数年前ここに越してくるまで、私は正反対の田舎に住んでいた。そこで仕事もしていたし、やりがいもあった。私はずっとここで生きていくと信じて疑わなかった。

 

でも本当に突然、引っ越さなければならなくなり、仕事も辞めて、新しいものを探さなければならなくなった。

 

寂しかったし不安だったし、辛かった。でも、辛さに浸る余裕もなく、知り合いもいない新しい土地で、やんちゃ盛りの子どもと生まれたばかりの子どもをほぼ一人で育てながら、新しい仕事のための試験勉強をしなければならなかった。

 

とにかく、やらなければいけないことを、やり遂げないといけない。ひたすら目の前だけを見て走り続けていた。

 

近所に目を向ける余裕はなかったし、友だちも作れなかった。

というか、同じ境遇の人がいなくて、誰にも関わりたくなかった。誰もこんな不本意な生活はしていないのだから、自分の苦しさとか弱みとかを理解してくれる人はいないと思っていた。

 

ふと走るのを止めると、現実が私をどうしようもなく攻めてきた。

自分がとんでもなく不幸に思えた。

 

いざというときに頼れる人が近くにいる。

悩みを相談できる人がいる。

それが、たまらなくうらやましかった。

 

何で私にはそれがないの。

あんなに今まで頑張ってきたのに、それを全部捨てて、何で私はこんなところで、やりたくもないことに追われて苦しめられているの。

 

何であのままでいられなかったの。

 

そんなことを考えてしまうから、走り続けるしかなかった。現実を見てしまわないように、負の感情に気づいてしまわないように、ずっと走り続けた。

 

この頃からもう精神的に崩れかかっていたのだと思う。